コラム・チェックポイント

2020.04.29 内田 清隆

合弁契約とロシアンルーレット条項

A社とB社が出資して合弁企業を作ったとしても,A社とB社との意見が対立して,合弁企業の経営を進めることができなくなるという状況(いわゆるデッドロック)が生じる場合があります。
合弁契約を締結する際には,そのような状況を打開するためのいわゆるデッドロック条項が入れられることになりますが,そのネーミングは面白いものです。

有名なのは,通称ロシアンルーレット条項です。

ロシアンルーレット条項とは,一方当事者が株式の単価を決定し,他方当事者に対して,その単価で相手の所有する株式全部を相手から買い取るか,その価格で自己の所有する株式全部を相手に売却するかの選択を迫れるようにするという条項です。
例えば,A社がB社に対して「A社の有する株式を1株100円で買い取れ」と申し出る。B社はこれを承諾することもできるし,これを拒絶して,逆にB社の有する株式を1株100円でA社に買い取らせることが可能となります。

ロシアンルーレットとは,拳銃に一発だけ弾薬を装填し,適当にシリンダーを回転させてから自分の頭に向け引き金を引くという恐怖のゲームです。
A社は,高く株式を売却しようとすると逆にB社に申し出を拒絶され,高い値段でB社の株式を買い取らざるを得なくなるという恐れがあります。
その恐怖は,自分の頭に向け弾が出るかもしれない拳銃を引く恐怖と似ているし,売却しようと申し出したのに,逆に購入しなければいけなくなる点が,自分に拳銃を引く行為に似ている点からつけられたネーミングでしょう。
なかなか,ひどいネーミングだと思います。

テキサスシュートアウト条項というのもあります。

テキサスシュートアウト条項とは,双方当事者が,第三者に売却希望価格を書いた紙を封をして渡し,封を同時にあけて,高い値段をつけた方がその値段で相手方の有する株式を購入できるようになるという条項です(なお別の条項をテキサスシュートアウト条項と呼ぶ人もいて,結構適当です)。
例えば,A社が「1憶円」,B社が「2億円」として入札すると,B社はA社の有する株式を2億円で買い取ることになります。

テキサスシュートアウトとは,ラスベガスでもっとポピュラーなポーカーのルールです。相手がつける売却希望価格を予想する点が,ポーカーで相手の手の内を予想する点に似ているためのネーミングでしょう。
本において,法律用語が「おいちょかぶ条項」やら「ちんちろりん条項」などとネーミングされることは考えづらいところです。
しかし,アメリカの法律の本では,まじめに「ロシアンルーレット条項とは?」「テキサスシュートアウト条項とは?」などと説明されています。

アメリカでは,契約や商取引を,ギャンブル同様のゲームととらえているともいえるし,逆にギャンブルを契約や商取引同様の真面目な頭脳戦であるととらえているのかもしれません。

そう考えると,法律用語にもいろいろと国民性があらわれるものです。