コラム・チェックポイント

2024.01.11 上田 晃一朗

派遣と請負の違いは?(偽装請負)

1 はじめに
労働者派遣事業は、派遣元事業主が、自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働に従事させることを業として行うことをいいます。他方、請負は、労働の結果としての仕事の完成を目的とする(民法第632条)ことをいい、指揮命令関係のない対等な当事者関係を本質としています。
よって、両者の違いは、注文主と労働者の間に指揮命令関係が生じるか否かという点です。
この点、偽装請負とは、書類上、形式的には請負契約ですが、注文主と労働者の間に指揮命令関係が存し、実態としては労働者派遣であるものを指し、違法です。

2 偽装請負かどうかの判断基準
労働者派遣、請負のいずれに該当するかは、契約形式ではなく、実態に即して判断されます。判断のポイントは、当事者間の実質的な指揮命令関係の有無です。
厚生労働省東京労働局は、偽装請負のパターンを以下の4つに類型化しています。
<代表型>
請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。偽装請負によく見られるパターンです。
<形式だけ責任者型>
現場には形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。
<使用者不明型>
業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンです。
<一人請負型>
発注者と受託者の関係を請負契約と偽装した上、更に受託者と労働者の雇用契約も個人事業主という請負契約で偽装し、実態としては、発注者の指示を受けて働いているというパターンです。

3 偽装請負を認めた裁判例(大阪高裁令和3年11月4日判決)
⑴  事案の概要
本件は、ビニールタイル等の各種床材、カーペット等の各種床敷物の製造、販売等を目的とするYと業務請負契約を締結したライフ社の従業員であり、Yの工場で製品の製造業務に従事していた従業員Xらが、Yに対し、Yは偽装請負(違法派遣)による労働者派遣を受け入れたので、労働者派遣法が定める派遣先が派遣労働者に労働契約の申込みをしたものとみなす場合にあたり、Xらがこれに承諾したとして、Yの従業員として地位確認を求めた事案です。
⑵  判断
① ライフ社が巾木工程および化成品工程において,業務の遂行方法に関する指示その他管理を自ら行っていないこと
② ライフ社が単に労働者の労働時間を形式的に把握していたにすぎず,労働時間を管理していたとはいえないこと
③ ライフ社の従業員が有給休暇を取得する際に,Y社の従業員に連絡することで行われていたこと
④ Y社から請負契約により請け負った業務を自らの業務としてY社から独立して処理していたものということができないこと

を指摘し,ライフ社が本件業務請負契約1・2に基づいてY社のD工場の巾木工程及び化成品工程で行っていた業務は,本件区分基準にいう請負の要件を満たさないと判断しました
また、「Y社は,従業員の混在がなくなった後も巾木工程及び化成品工程におけるライフ社の従業員に対する業務遂行上の具体的な指示を続けるなど,偽装請負等の状態を解消することなく,日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたのであるから,本件業務請負契約1・2が解消されるまでの間,Y社には,偽装請負等の目的があった」と推認できるとしました。
その上で、Yは、労働派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行い、…同項柱書本文により労働契約の申込みをしたものとみなされ、これに対してXらは承諾の意思表示をしたことから、XらとYとの間に労働契約(無期契約)が成立したと判断されました。つまり、偽装請負を認定したことになります。
⑶  ポイント
このように、本判決では、本件業務契約の業務の実態を検討し、偽装請負状態にあると判断しました。また、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情が無い限り、派遣先が偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で役務の提供を受けていたものと推認することが相当であると判示して、偽装請負を認定しました。

4 まとめ
このように、契約上、形式的に請負とされていても、実態が伴わなければ、偽装請負と評価される場合があります。請負の際は、形式と実態に不一致がないか配慮しなければなりません。

以 上