コラム・チェックポイント

2020.05.29 上田 晃一朗

着替えの時間は労働時間ですか?

着替えの時間は長いものではありません。しかし,ちりも積もれば山となる。
それが賃金支払いの対象になる労働時間であるかは重要な問題となります。

この点,「最高裁が制服や作業着への着替えの時間も労働時間に含まれると決定した!」という説明をよく目にします。しかし,誤りとまではいえませんが,かなりいい加減な説明です。
正確には,最高裁は,平成12年3月9日判決は,出退勤時の着替えの時間も,「事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは」,労基法上の労働時間に原則含まれるとしたものです。

その事例では,作業服等の装着が法律上も義務付けられており,その装着を所定の更衣所等において行うものと会社が命じていました。
最高裁は,その事例において着替えの時間も労働時間になると示したにすぎません。
また,その事例でも,昼食休憩中における作業着の着脱時間は労働時間とされていない点も注意が必要です。

最高裁は,事業者内で着替えをするよう命じられていなくても「余儀なくされている」場合には,労働時間に含まれるとしています。
性風俗店の猥褻なコスチュームのようにそれを着て出勤するのは常識的に不可能な場合であれば,会社が店で着替えをするよう命じていなくても「余儀なくされている」として着替え時間は労働時間に含まれるという意味だと思われます。
しかし,どのような場合「余儀なくされている」といえるのは不明確であり,今後の検討課題でしょう。