コラム・チェックポイント

2020.05.29 上田 晃一朗

勤務時間外の犯罪行為を理由に懲戒解雇にできますか?

従業員が勤務時間外に犯罪行為を起こした場合に,懲戒解雇をすることはできるでしょうか?
「そんな犯罪者を雇い続けられない!当然できるだろう」と思われるかもしれません。
しかし,勤務時間外の従業員の行動には会社の管理は及ばないとして,懲戒解雇にはできないという考え方もあります。
裁判所の判断は,ケースバイケースとなっています。
裁判所は,勤務時間外の行為であっても,会社の信用を害したり,会社の秩序を害したりする場合があるため,懲戒解雇は可能としています。
しかし,どんな場合でも犯罪行為があれば懲戒解雇できるとしているわけではなく,一定程度以上の悪質性がある場合に限定しています。

考えてみれば当たり前の話です。
スピード違反も立派な犯罪です。しかし,軽微なスピード違反で,自動車の運転と関わりのない従業員を懲戒解雇にすることはやりすぎでしょう。

そこで,問題となるのが,どのような場合,解雇が可能なのかです。
いくつかの裁判例を調べてみての感じでは,

正式裁判になり執行猶予付きの有罪判決
 →懲戒解雇可能
 略式裁判になり罰金を命じる有罪判決
 →懲戒解雇可能な場合もだめな場合もあり微妙
という感じになっています。

もう少し,末尾の裁判例を詳細に分析すると,

  1. どんなにかわいそうと思える事情があっても罰金で済まずに正式裁判となっている場合には懲戒解雇は有効とされている。
  2. 3番の事例と8番の事例は同じような事例でありながら,結論が分かれた事例であり,限界事例。その事例からして罰金刑で済むような場合には,業務と一定の関係性があっても懲戒解雇は許されるか微妙である。
  3. もっとも2番の事例のように罰金にすらならなかった場合でも,特殊な事情があれば,懲戒解雇は有効となる。
    つまり,ケースバイケースではありますが,罰金刑で済むような場合には,最低,その事件により実際に信用を落としたとか,職場に混乱が生じたといった事情がないと,懲戒解雇にすることには問題がありそうです。

もっとも飲酒運転の事例が多いが,飲酒運転の厳罰化が進んでおり,現在であれば,違う判断になるケースも少ないかもしれません。

懲戒解雇・免職が有効

  1. 東京地裁 平成15年12月8日
    電車内痴漢(迷惑防止条例違反)
    懲役2月執行猶予4年
  2. 新潟地裁 平成元年4月2日
    機動隊員を3回殴打で現行犯逮捕
    起訴猶予
    戒告歴2回 国鉄職員
  3. 甲府地裁 昭和58年3月28日
    酒酔い運転で物損事故(道交法違反)
    罰金5万円
    トラック運転手
  4. 大阪地裁 昭和56年3月24日
    公職選挙法違反
    懲役10月・執行猶予4年
    事務員が断りづらい立場で行ったもので情状酌量余地あり
  5. 東京地裁 平成18年5月31日
    ベランダに父親の死体を遺棄
    懲役2年 執行猶予3年
  6. 最高裁  昭和49年2月28日
    デモで公務執行妨害
    懲役6月執行猶予2年
    国鉄職員
    懲戒解雇・免職が無効
  7. 最高裁  昭和49円3月15日
    デモで飛行場内に不法に立ち入り逮捕
    安保特別法違反・罰金2000円
    広く報道 大会社の一事業所の工員
  8. 最高裁  昭和45年7月28日
    酔って見ず知らずの居宅に侵入し逮捕
    罰金2000円
  9. 最高裁  昭和61年9月11日
    酒酔い運転により物損事故
    罰金5万円
    タクシー運転手