コラム・チェックポイント

2020.05.29 内田 清隆

物のパブリシティ権

最高裁判決(http://uchida-houritsu.sblo.jp/article/53415247.html)によると,有名人の写真や氏名を広告に利用することは一定の場合許されません。
いわゆるパブリシティ権というものです。

では,人ではなく,有名な「物」,例えば世界的に有名なスポーツカー,著名な建築物などを利用することはできるのでしょうか,物のパブリシティ権と呼ばれる問題です。

この点は,下級審でも判断が分かれていたのですが,最高裁平成16年2月13日判決(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120716670381.pdf)は,法律上は「物」となる競走馬の名称の使用について,

物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。
と判示して,物のパブリシティ権の存在について否定しました。

「あの伝説の競走馬,オグリキャップがついに復活!」と広告に用いることができるというわけです。

最高裁によればパブリシティ権は「人格権に由来する権利の一内容」である。そして「人格権」は法的に保護されるが「馬格権」なるものは法的に保護されない以上,オグリキャップにはパブリシティ権がないということです。
人と馬とを差別し,人を優遇するものですが,法律をつくるのが人である以上,馬の権利は無視されてもやむを得ないということでしょうか。

もっとも,最高裁の判例が述べるように,場合により著作権法,商標法,不正競争防止法違反となる場合もあるので,注意が必要なことはいうまでもありません。
特に需要者に広く認識されている商品表示を,自社と何らかの関係があるかのように利用することは不正競争防止法違反になるので注意が必要です。