コラム・チェックポイント

2020.05.19 内田 清隆

英文契約書の分かりづらさ~謎のラテン語

英語ができても,英文の契約書を理解することは大変です。
その原因の一つは,英文の契約書ではラテン語由来の借用語が使われるためです。

●bona fide   =善意の
例 bona fide third party=善意の第三者
●pro rata   =按分計算で
例 on a monthly pro-rata basis=月割りで
●lex fori    =法廷地法
●inter alia   =とりわけ,なかんずく
●force majeure =不可抗力
などなど,おそらく普通のアメリカ人も分らないのではないかという単語が多用されることが少なくありません。

実は,昨今の日本における外来語のように,英単語の半数以上は,フランス語及びその元であるラテン語からの借用語です。
11世紀にフランスのノルマンディー公がイングランドを征服して以来,英国人が「フランスの言葉ってカッコいい!」として,どんどんラテン語系の単語を取り入れ続けてきたためです。
こうして,契約書という威厳が必要な書類に,普段使わないカッコいい外国由来の言葉がどんどん使われるようになってしまいました。

考えてみれば,日本語の契約書でも事情は変わらないかもしれません。
契約書を「甲と乙とは」で始めるのが通常ですが,「甲」「乙」などいまどき契約書以外では目にしません。
「不可抗力」も「善意の第三者」も「法廷地法」も普通の日本人が日常使う言葉ではありません。
中国の言葉を「カッコいい!」「威厳がある!」と当時の日本人が感じたため,それを借用して作り出した単語が日本語の契約書でも多用されているのです。

「もっと分かりやすい単語を使うべきだ!」と思うのは私だけでないようで,最近では,英文契約書では,以前よりラテン語由来の単語が使われるケースは少なくなってきました。
日本語の契約書でもそうあるべきでしょう。