コラム・チェックポイント

2023.09.13 内田清隆法律事務所

警告書を送る前にチェックすべきポイント ~商標編~

警告書を送ったら賠償請求されるかも!?

商標が侵害されると思ったら、直ぐに侵害を止めるために警告書を送る必要があります。しかし、実際には商標を侵害していなかったら、逆に、損害賠償を請求されることがあります。

そのため、御社の商標が侵害されているのを見つけたら、本当に商標権を侵害されているかを一歩立ち止まって考える必要があります。

今回は、警告書を送る前にチェックすべきポイントを説明いたします。

 

☑ 指定商品・役務は同一または類似か?

商標は何らかの商品やサービスを識別するためのマークですが、その登録をする際には、そのマークだけではなく、そのマークが用いられる商品やサービスの種類を併せて登録します。

例えば、森永製菓のお菓子である「ハイチュウ」は、「菓子、パン」に用いられるマークであると指定されて登録されています(他には、「茶」「ピザ」なども指定されています)。

「菓子、パン」のように、マークが用いられると商標登録に際して指定されている商品・サービスのことを「指定商品・役務」と言います。

ここで、商標権の侵害になるには、マークが同一であったり、類似しているだけでは足りません。先ほど述べた「指定商品・役務」も、同一か類似である必要があります。

「ハイチュウ」という名前のテレビゲームを販売しても、「菓子、パン」と「テレビゲーム」は類似していないので、商標権の侵害にはならないのです。

したがって、商標登録しているマークが、他人に利用されているといって、直ちに商標権を侵害されているとして警告書を送ってはなりません。商標登録しているマークの指定商品・役務を確認して、それと同一又は類似している商品やサービスに利用されているかを確かめる必要があります。

 

☑ 商標の更新をしていますか?

特許権は、原則、特許出願の日から20年をもって終了し、更新することはできません。

一方 、商標権の存続期間は、設定登録の日から10年ですが、更新登録の申請をすれば、何度でも存続期間を更新することができます。

ただ、存続期間の満了前に更新手続をしていなければ、商標権は存続期間の満了により消滅していることになります。

そのため、警告書を送付する前には、商標権が存続しているかを確認する必要があります。

なお、更新手続をせずに存続期間を満了したとしても、満了してから6か月以内なら、倍額の更新料を支払うことで商標権の更新をすることができます。6か月以内に気付くことができたなら、急いで更新手続をするべきでしょう。

ここで、商標権を設定登録してから10年経ってなくても、商標権が存続していないことがあることに注意すべきです。

というのも、現在では、商標登録の登録料は、前半5年分と後半5年分の2回に分けて納付することができ、このように分割納付をしていた場合には、存続期間が5年過ぎるまでに後5年分を納付していないと、商標権が消滅してしまっているからです。

 

☑ その商標は使用していますか?

登録した商標は、登録の際に指定した商品やサービスに継続して3年以上日本国内で使用されていなければ、審判で取り消すことができると定められています(商標法50条)。

商標の登録をしていれば、その商標を独占的に利用することができますが、実際に使用していなければ商標の独占を認める必要はないためです。

したがって、使用していない商標について、商標権侵害の警告書を送付すれば、商標の取消請求という思わぬ反撃を受けるかもしれません。そのようにならないために、警告書を送る前に、侵害された商標を使用しているかを確認するべきです。

なお、複数の指定商品・役務がある場合に、不使用を理由に取り消すことができるのは、使用していない商品・役務についてだけです。そのため、あるマークに関して「菓子」「薬剤」「化粧品」と商品が指定される場合、「化粧品」についてだけそのマークを利用していなければ、取り消すことができるのは「化粧品」についてだけです。「菓子」「薬剤」については、取消の審判を起こされても引き続き、独占的に利用することができます。

また、正確に述べれば、不使用を理由とする商標登録の取消審判が認められるのは、あくまで、その審判請求の登録前3年以内に登録商標が使用されていない場合です。

そのため、商標権の侵害を発見したときは3年以上商標を使用してなくても、そこから商標の使用を初めて、その後に商標権侵害の警告書を送れば、取消審判が認められることはありません。

ただし、審判請求前3か月から請求の登録日までの間に使用を始めた場合は、「駆け込み使用」であるとして、商標登録の取消しが認められる場合があるので、注意が必要です。