コラム・チェックポイント

2023.07.28 内田 清隆

破産は再起のチャンス~江戸時代の破産

日本で民法典を作る際の参考資料にするために、明治9年から13年にかけて各地の法慣習について調査が行われました。同調査内容のまとめとして発行されたのが「民事慣例類集」です。
国会図書館のサイトから簡単に読むこともできます。
https://dl.ndl.go.jp/pid/786945/1/1

民事慣例類集を読むと、江戸時代の破産(当時の言葉でいう「分散」)は、比較的破産者に優しいものであったことが分かります。

なかには、
「表町に住むことを禁ずる」
「分散人は町村にて賤視し同等の交際をなさざる慣習なり」
「分散人は大に権利の劣る者としてその生涯は人の長たる職には選任さられざる」
「大いに権利の劣る者にて集会の席に発言することあたわず。婚姻することなくあるいは縁組せしものも離縁して交際を絶つ」
などという厳しい処遇が書かれているものもあります。

しかし多数は、
「挽回の方法を付与する」「身代持直しを取り計らう」
「町村の交際において別段権利の劣るなき習慣なり」
「分散せし者も別段権利の劣ることなき例なり」
「分散せし者も別に権利の劣ることなく自ら謙遜して人の風下に立つ習慣があるのみ」
「町方にては・・別段賤視することなし」
というもので、破産者も通常の生活を送ることができていたようです。

日本では江戸時代初期から、破産者は持っている資産をできる限り処分し弁済に宛てれば、「免責」になる、すなわち、それ以上の返済をしないでよくなることが通例でした。
このような制度がイギリス・アメリカで取り入れられたのは、19世紀になってからですし、フランス・ドイツにいたっては1990年代になってからです。
これらと比較すると、日本では異常に早く免責制度ができたといえるでしょう。

破産は、江戸時代から、破産者に罰を与えるためのものではなく、経済的更正のチャンスを与えるためのものであったわけです。

「破産すると選挙権を失うのでしょ?」「破産したら、周りの人にそのことが知れて今の場所に住めなくなるのでしょ?」などと質問を受けることがあります。
しかし、弁護士・会計士など限られた職業につけなくなることを除けば、破産者に対する懲罰は存在していません。
破産制度とは、失敗しても再起を図るチャンスを与えるための制度なのです。