コラム・チェックポイント

2022.12.02 内田 清隆

特許権侵害訴訟にかかる弁護士費用等から裁判をすべきかを考える

1億円の損害賠償請求の訴訟費用
特許侵害を理由に1億円の損害賠償を求める訴訟を提起した場合にかかる弁護士費用等はいくらぐらいになるのでしょう。

日本弁護士連合会が全国2000人余りの弁護士に行ったアンケート結果によりますと、同案件で弁護士に払う着手金の平均は約270万円だそうです。
参考:https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/remuneration08.html

ケースバイケースですので、一概にはいえませんが、当事務所の基準ですと、239万円+消費税となりますので、当事務所もほぼ全国平均と同じぐらいのようです。
参考: http://www.uchida-houritsu.com/cost/

もっとも、これは弁護士費用だけであり、他に裁判所に納める印紙代が32万円かかり、また、特許侵害訴訟は東京と大阪にしか管轄がないため、金沢から東京または大阪への出張費がかかります。

いずれにしても、合計額が500万円になるということはありません。
そうすると、勝訴率が5%だとしても、期待額は1億円×5%=500万円ですから、裁判をした方が得ということになります。
したがって、損害額が多額であれば、特許権侵害訴訟は勝訴率は少なくても積極的に提起した方がいいということになりそうです。

複雑化しがちな特許権侵害訴訟
しかしながら、話はそう単純ではありません。
まず第一に上記は一審に要する費用だということです。日本では三審制が適用されていますので、控訴審、上告審と訴訟が続いていく可能性があります。3回やったとしても費用が3倍にはならないことが通常ですが、相当額が追加で必要とはなります。

さらに重要な問題は、特許権侵害訴訟を提起すると、それに関連して別の訴訟や審判が提起されたりして、話が複雑化し、それに伴う費用が次々と追加になる可能性が高いという点です。

特許権侵害訴訟を起こすと、半分を超えるかなりの確率で、同特許が無効であるという主張がなされます。そして、同主張について無効審判が提起され、審決取消訴訟という別訴訟でも判断されることになることは珍しいことではありません。

また、対抗措置として、問題となっている特許とは全く別の特許についての無効審判が起こされたり、全く別の特許権について逆に侵害訴訟を提起されたりすることもあります。さらには、海外で訴訟を提起される場合さえあります。

このようにして、特許権侵害訴訟を提起したことをきっかけに、次から次へと紛争が勃発し、弁護士費用が当初の着手金の何倍も必要となることは珍しいことではないのです。

高額の弁護士費用対策
このように特許権に関連する事業については、多額の訴訟費用を要するリスクを常に抱えているといえます。

そのため、特許権侵害に関する訴訟費用を賄うための知財訴訟費用保険制度が設けられていますし、また、ジェトロなどが海外における特許権侵害訴訟に関して助成金を出したりしています。

それとは少し別の観点ですが、弁護士費用の敗訴者負担制度についても、議論が繰り返されています。権利を侵害されても、弁護士費用を考えると訴訟をすることができずに泣き寝入りするしかないという状況が起こらないようにする制度です。

いずれにしても、どんな裁判でもそうですが、特に特許権侵害訴訟においては、同訴訟に要するコストの問題は、裁判をするかどうかを決定するために非常に重要な要素であり、かつ、計算が難しい問題です。
そのため、裁判をする前には、時間をかけてじっくりと検討する必要があるところです。