2025.09.18
取締役会による役員退職金の減額決議(最高裁判所第1小法廷令和6年7月8日判決を通じて)
1 はじめに
非上場会社の取締役に対する役員退職金を念頭に、最高裁判所第1小法廷令和6年7月8日判決を通じて、取締役会によって役員退職金を減額決議した場合に生じる問題点を考察する。
2 株主総会決議
役員退職金とは、退任した役員に対して支払われる在職中の職務執行の対価であり、役員報酬の一種である。そのため、役員退職金の支給に関しては、定款にその額、算定方法等を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならない(会社法361条1項)。
よって、役員退職金の具体的な支給額又は支給基準を株主総会で決議するというのが、本来的な決議方法になる。
3 取締役会への一任決議
役員退職金については、株主総会では具体的な支給額の決定をせず取締役会に一任する旨を決議することが広く行われている。このような取締役会への一任決議も支給基準を株主が推知することができ、当該支給基準に従って決定することを委任する趣旨であれば、当該決議は無効ではないと解されている。
株主総会で取締役会への一任決議を行った場合には、原則として、取締役会の決議によって具体的な金額が確定することによって、役員退職金請求権が発生する。また、株主総会で取締役会への一任決議を行った以上、取締役は、取締役会で役員退職金規程に従って役員退職金の具体的な金額を決定する義務を負う。
この点、退任取締役の役員退職金の決定につき取締役会が株主総会決議による委任を受けた場合において、基準額から減額する旨の取締役会決議をした場合にそれが適法か、事案ごとの判断が必要とされる。
4 最高裁判所第1小法廷令和6年7月8日判決
(1) はじめに
本判決は、退任取締役の役員退職金の決定につき取締役会が株主総会決議による委任を受けた場合において、基準額から減額する旨の取締役会決議に裁量権の逸脱・濫用がないとした事例である。
(2) 事案の概要
・Y会社には、退任取締役の役員退職金の算定基準を定めた内規があった。
・内規では、退任時の報酬月額により定まる額(以下「基準額」という。)を基準としつつ、「在任中特に重大な損害を与えた場合」には、基準額を減額できる旨の定め(以下「本減額規定」という。)があった。
・代表取締役(以下「X」という。)は、在任中、以下の行為をしていた。
①長期間にわたってY会社から社内規程所定の上限額を超過する額の宿泊費等を受領し、このことが発覚した後には、いったん負担した当該超過分に係る源泉徴収税相当額をY会社に転嫁するとともに、社内規程に違反する宿泊費等の支給を実質的に永続化する目的で自らの報酬を増額した。
②複数年度にわたり、交際費として従前の支出額を大幅に超過する額をY会社に支出させた。
・その後、Xは、取締役を辞任した。
・株主総会では、役員退職金につき、内規に従い決定することを取締役会に一任する旨の決議がなされた。
・その後、調査委員会による調査報告書では、基準額から会社の損害額の全部又は一部を控除した額の役員退職金をXに支給する決議をしたとしても他の取締役に善管注意義務違反があるとはいえない旨が述べられていた。
・これを受けて、取締役会では、役員退職金として、基準額(3億7720万円)から損害額の90%相当額を控除した額(5700万円)をXに支給する旨の決議がなされた
・それに従って、Xへ役員退職金として、5700万円が支給された。
(3)原判決の判断
原審(福岡高等裁判所宮崎支部判令和4年7月6日)は、Y会社の取締役会は、XはY会社へ特に重大な損害を与えたとはいえないにもかかわらず、Xの役員退職金を減額した点において本減額規定の解釈適用を誤ったとし、取締役会決議には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるなどとした。
(4)本判決の判断
本判決は、本減額規定の趣旨は、取締役を監督する機関である取締役会が取締役の在任の行為について適切な制裁を課すことにより、Y会社の取締役の職務執行の適正を図ることにあるものと解され、取締役会は、「在任中特に重大な損害を与えた場合」に当たるか否か、これにあたる場合に減額をした結果として退職慰労金の額をいくらにするかの点の判断に当たり広い裁量権を有するとした上で、取締役会の決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということができるのは、この判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理である場合に限られるとした。その上で、Xの行為はY会社に多大な損害を及ぼす性質のものと評価することは合理的であり、取締役会の判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理であるということはできないと判示した。
その上で、Xの退職慰労金の額を5700万円とした取締役会の判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理であるということはできず、取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできないと判示した。
(5)考察
退任取締役の役員退職金の決定につき取締役会が株主総会決議による委任を受けた場合において、基準額から減額する旨の取締役会決議をした場合にそれが適法か、事案ごとの判断が必要とされる。
この点、本件は、株主総会の委任の趣旨を踏まえ、取締役会に対し、退任取締役の過去の行為などに照らし大幅に減額できる裁量を認めた点で、先例的意義がある事例と解する。
以 上
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