コラム・チェックポイント

2023.04.19 内田清隆法律事務所

音楽を流せば「演奏権」の侵害になることがある!

音楽の著作権者は、作曲家や作詞家です。
そして、著作権の中には演奏権という権利が含まれており、著作権者は独占的に「公衆に聞かせることを目的として演奏する権利」を持ちます。そのため、作曲家や作詞家などの著作権者の許諾なしに「公衆に直接聞かせることを目的」として音楽を演奏すれば、著作権の侵害になってしまいます。

なお、ここでいう「演奏」とは、楽器を奏でたり歌ったりする場合だけでなく、音楽ファイルを再生するだけの場合も含みます。そのため、ダウンロードした音楽を許諾なく流していれば、著作権(演奏権)の侵害になることがあります。

ここで注意すべきは、演奏権は「公衆に直接聞かせることを目的」とする演奏だけを対象にするということです。演奏するだけであれば何か形として残ることはないため、著作権違反になる範囲は「公衆に直接聞かせることを目的」とする演奏に限定しているのです。

そのため、「公衆に直接聞かせることを目的」以外の目的で、著作権のある音楽を演奏しても、著作権(演奏権)の侵害にはなりません。
例えば、特定の少数の者に聞かせることを目的の演奏をした場合は、「公衆に直接聞かせることを目的」での演奏ではないので、著作権(演奏権)の侵害になることはなく、著作権者から許諾を得る必要はありません。

「公衆に直接聞かせることを目的」の演奏でも著作権侵害にならない場合とは?

運動会には保護者や生徒など多くの人が集まるので、運動会で音楽を流すと、「公衆に直接聞かせることを目的」とする演奏になってしまいます。
そのため、運動会で音楽を流すことは、著作権(演奏権)を侵害することになりそうです。

ただ、著作権法上、「公衆に直接聞かせることを目的」の演奏であっても、「営利を目的としない演奏」であれば、例外的に、著作権の侵害にならないと定められています。

そして、著作権侵害にならない「営利を目的としない演奏」として認められるためには、次の要件を満たす必要があります。
①「非営利かつ無料」
「無料」というのは、お客さんからお金を取っていないということです。
「非営利」も要件としているのは、お客さんからお金をとっていなくても、企業の宣伝用のコンサートのような、営利的な演奏は著作権者に権利料を払うべきという考え方からです。
②「無報酬」
演奏者にお金を払っていないということです。著作権者には権利料を払う必要がないのに、演奏者に報酬を払うのは、公平でないという考え方から要件とされています。

この点、運動会は、通常、「非営利かつ無料」です。また、運動会で演奏をする場合、音楽ファイルを再生することが多く、演奏者に報酬を払っていることは殆どないと思います。
そのため、運動会で流行りの音楽を流したとしても、通常、著作権の侵害になることはないでしょう。

運動会を動画撮影すれば、著作権の侵害になり得る!

運動会に行くと、子供を動画で撮影したくなります。その際、無音で撮影する人はいないでしょう。運動会で流れている音楽も一緒に録音することになります。

音楽を録音すれば、著作権の中に含まれる複製権という権利を侵害することになります。複製権は、先ほど述べた演奏権とは違って、目的による限定はありません。そのため、動画撮影をして、そのことで音楽を録音することになれば、著作権(複製権)の侵害になってしまいます。

こういうと、疑問に思う人は多いでしょう。「昔は、レンタルしたCDからカセットやMDに音楽を録音(複製)していた。それがすべて著作権侵害になるのはおかしい!」と思うはずです。

その疑問は、そのとおりです。実際には、複製(録音)がすべて著作権侵害になるわけではありません。複製権には例外があり、私的目的のために複製(録音)する場合には、著作権の侵害にはなりません。

そのため、運動会で子供を動画で撮影し、流れていた音楽を録音することになっても、それがホームビデオとしてならば、著作権の侵害にはなりません。

一方、学校サイドが運動会の様子を動画で撮影して保護者に配布することがありますが、動画に音楽が録音されていれば、著作権の侵害になる可能性が高いです。保護者に配布するために学校サイドが複製(録音)する場合は、私的目的であるとは言えないからです。

音楽教室での著作権使用料の徴収で話題になったように、音楽の著作権を管理するJASRACの対応は厳しいです。後から問題になる前に、JASRACの許諾を事前に取っておいた方がいいでしょう。なお、JASRACの許諾は、サイトで簡単に取ることができます。