コラム・チェックポイント

2021.03.29 内田 清隆

海外取引における管轄の決め方

海外企業との契約において,管轄をどこにするのかでもめることはよくあり,日本企業は日本に,海外企業は自国に管轄を設定しようとして争う場合が多いです。

しかし,本当に日本に管轄をもってくることが有利なのかはよく考える必要があります。

例えば,日本の会社と中国の会社の契約を考えてみましょう。
その場合,日本に管轄を決めた場合には日本で裁判をすることになります。しかし,日本で勝訴判決を得たとしても,中国の会社の資産が日本にない場合には,日本の強制執行手続では債権を回収できません。
そのため,債権を回収するためには、中国で強制執行手続をとる必要があります。

ところが,日本の裁判所の判決は,中国(中華人民共和国)では承認を受けることができないというのが通説です。
そうなると,日本でとった勝訴判決は中国では使えないことになります。そして,中国で強制執行をするためには新たに中国の裁判所で勝訴判決を得る必要があるということになるのですが,管轄を日本と決めてしまうと中国で裁判をすることはできないことにもなり得ます。
その結果,法的手続では中国の会社から債権回収が不可能という不合理な結果が発生する恐れがあるのです。

日本に管轄があった方が有利だと単純に考えられないわかりやすい事例です。

以上のリスクを考慮すると、被告地主義、つまり訴える側が訴えられる側の国に行って訴訟を提起しなければならないとすることは合理的な選択の一つです。
相手方会社の所在国に相手方の資産がない可能性は低いですし、相手方所在国でとった勝訴判決がその国の強制執行手続に使えないはずもありません。

また、日本の仲裁裁判所を管轄としておけば理論的には安心です。
仲裁条約によって,日本の仲裁判断はほとんどの国で承認されるためです。

いずれにせよ,承認の可否,資産の所在地,取引の規模,紛争の可能性など諸般の事情を考慮して管轄を決めることが重要です。