コラム・チェックポイント

2021.10.21 渡辺 数磨

居住物件の賃貸借契約書について~特約と明渡し~

不動産を賃貸借を行う際には,多くの場合,賃貸借契約書が作成されます。
居住物件についての賃貸借契約には,消費者契約法が適用されると考えておくべきです。消費者契約法が適用されると,消費者である賃借人が結んだ非常に不利な契約条項が無効となったり,契約自体を取り消せる場合があります。

不動産賃貸借契約書はひな型が公開されており,実際の契約にもこれらがよく使われています。こうした場合,契約書本体に問題があることは少ないです。
しかし,ほとんどの契約書には,「特約」として,お互いの話し合いで特別に設けることができる余地があります。
この特約の内容は要注意です。定型性がなく自由度が高い分,不公平な内容の約束をする可能性がある点で借りる側にとって要注意であることはもちろん,後に消費者契約法の適用を巡って紛争化する可能性を考えると,貸す側,つまり大家にとっても要注意です。要は,無茶な特約をして後々もめることは避けるべきということです。

また,特約以外に争いが生じやすいのが,退去した際の精算です。
退去時の精算とは,借りたものは元の状態に戻して返却するという原状回復義務(民法621条)と敷金返還義務(同622条の2)の内容を確定,相殺して残債の支払いを済ませる作業のことです。
居住していた以上,賃貸物件に生活の痕跡が残りますが,原状回復義務というのは,この痕跡を完全に取り去って借りる前の状態に完全に戻すスパイ映画のようなことを求めるものではありません。条文にもあるように通常損耗・経年変化は対象から外れるのです。要は,通常の使い方であれば,借主は一切原状回復費用を負担する必要もないということです。ただし,「通常」という言葉は,立場によって受け止め方が異なるものですので,多くの場合,貸主と借主で意見が合いません。
こうした際の一定の基準を示すことを目的として策定されたのが国土交通省住宅局の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」ですが,同ガイドラインの存在を知らない賃借人も多く,基準が無視されている場合もあるので要注意です。

立ち退きの際の約束事として特約が付されている場合には,さらに問題は複雑化します。ガイドラインの存在を踏まえて特約条項を消費者契約法に照らして検討する必要があるからです。このあたりになると,裁判で争われるケースもあり,裁判例の調査も必要となります。
いずれ,事案によって多様な問題が生じる話です。
不動産賃貸借契約を巡って,疑問に思った点は,お気軽にご相談下さい。