コラム・チェックポイント

2023.03.28 内田清隆法律事務所

名誉棄損の慰謝料はいくらになるか?

名誉棄損の慰謝料は高額化している?

 書き込み等により名誉を毀損された場合には、精神的損害の賠償の請求として、慰謝料を請求することができます。
 以前は、名誉棄損による慰謝料が高額になることは余りありませんでした。マスメディアによる名誉棄損であっても、裁判所の認容額は100万円ほどになることが多く、いわゆる「100万円ルール」が裁判の実務相場とも言われてきました。
 しかし、最近では、名誉毀損の慰謝料が安すぎるとの批判が増えたためか、裁判所が名誉毀損事件で100万円を超える慰謝料を認めることも見られるようになりました。
 それでも、名誉毀損の慰謝料の中央値は50万円ほどであると言われており、名誉毀損の慰謝料が100万円を超えることは少ないです。

 なお、名誉を毀損された場合に請求できるのは、慰謝料だけではありません。名誉毀損によって実損害が生じた場合には、その賠償も請求することができます。
 例えば、会社の名誉(信用)が毀損された場合に、それによって、会社の売上が下がれば、その下がった売上分を請求することができます。
 ここでの問題は、名誉毀損によって会社の売上が下がったという因果関係が認められるかということです。売上が低下する理由は多々あるため、実務上、この因果関係の立証は難しいです。それでも、因果関係の立証さえできれば、どのような実損害でも名誉毀損を理由に請求することはできます。
 

慰謝料の金額はどのような点を考慮して決まるのか?

 名誉毀損の慰謝料の金額を決める明確な基準はありません。裁判官によっても慰謝料の金額は変わってくるので、個別の事件で慰謝料が幾らになるかを予想するのは難しいです。
 ただ、裁判官は適当に慰謝料を決めるわけではありません。裁判官が慰謝料を決めるに当たって考慮する点はあります。
 例えば、ネット上での名誉毀損では、次のような点が考慮されて慰謝料の金額が決まります。
・アクセス数はどの程度あったか
・どれくらいの期間、ネット上に掲載されていたか
・どのような投稿(分量、過激さの程度、具体性の程度など)か
・その投稿がどの程度信用できるものとして受け止められるか
・どのような目的で投稿されたか(公益目的があるか)
・反論はしているか、反論は容易か
・実害が発生しているか
・執拗性(繰り返し回数、警告を無視したか)

裁判例を見てみよう!

 さきほど述べたように、個別の事件で慰謝料の金額を予想するのは難しいです。ただ、今までの裁判例を見てみれば、おおよそのイメージを持つことができます。
 そこで、ここでは、名誉毀損事件で、高額の慰謝料が認められた裁判例から、少額の慰謝料しか認められなかった裁判例を順に紹介します。

・大阪地裁平成24年6月15日 認容額:600万円
 (名誉毀損の内容)
 A新聞に、「枚方市長が、①清掃工場建設を巡る談合に関与していた、②談合事件の容疑者からほぼ毎月のように接待を受けていた」との記事が掲載された。
 (考慮された事情)
 ①A新聞が我が国有数の日刊紙であり、 相当数の読者が記事を目にした
 ②記事の内容が、政治家である原告に対して与えた打撃の程度は著しい
 ③A新聞社の取材活動は粗末なものであった 
 ④何らかの名誉回復あるいは慰謝の措置を採ったとも認められない

・名古屋高判平成24年12月21日 認容額:100万円
 (名誉毀損の内容)
 自身の管理するブログに、建設業者(原告)の工事について、「当マンションの隣の空き地 になんの事前報告も無しに突如産業廃棄物(建設残土)臨時保管所が設営された」「作業中 は舞い散る粉じんによって窓は開けられない,そのけたたましい重機の騒音によってテレビ の音も聞き取れない」、「苦情を伝え改善対策をお願いするも誠意ある対応は一切なし」などの記事を掲載した。
 (考慮された事情)
 度重なる削除要請にもかかわらず,約3年間にわたって記事が掲載されていたこと

・東京地判平成28年12月27日 認容額:60万円
 (名誉毀損の内容)
 ブロガーが、ネット新聞上に、「国立大学の特任助教が、①職員に重篤なパワハラをして、自殺未遂に追い込んだ、②カラ出張や研究費の着服をした」といった記事を投稿した。

・大阪地判平成29年8月30日 認容額:60万     
 (名誉毀損の内容)
 SNSで被害者本人の顔写真を利用してなりすまし、ネット上の第三者を罵倒するような投稿を続けた。なお、この事件では、肖像権の侵害も認定されています。
 (考慮された事情)
 ①投稿の内容や投稿の目的に正当性がない
 ②加害者は被害回復措置を講じていない
 ③加害者はアカウント名やプロフィール画像を1か月程度で変更した(減額の事情)
  ※ この裁判では、加害者を特定するためにした裁判費用58万6000円の賠償も認められています。

・東京地判平成28年7月21日 認容額:30万円
 (名誉毀損の内容)
 ネット掲示板に「ネット掲示板を運営するA社(原告)が悪徳業者である」等と投稿した。
 (考慮された事情)
 投稿により原告の掲示板が危険視されることになり,営業上の損失が生じうる。
  
 
・東京地判平成30年1月25日 認容額:1万円
 (名誉毀損の内容)
 ウェブサイト上に,「統合失調症のX1へ入院してください。Aに毎日,働いているけど病気が進行してます。」と投稿した。
 (考慮された事情)
 判決文では、慰謝料が低額である理由は記載されていません。双方が誹謗中傷を繰り返していた事案であるため、投稿が信用性ないものと受け取られていたと評価されたのかもしれません。