コラム・チェックポイント

2023.04.12 内田清隆法律事務所

どのようにして誹謗中傷した投稿者を特定するか?

損害賠償を請求するためには投稿者を特定する必要がある!

インターネット上で誹謗中傷の被害にあったとしても、誰が誹謗中傷をしたか分からなければ、損害賠償を請求することはできません。誹謗中傷をした投稿者に対して損害賠償請求をするためには、まず、投稿者の住所や氏名を特定する必要があります。

インターネットでは匿名で投稿されることが多いので、誹謗中傷をされても、一見して、誰がしたのかが分からないことが多いです。ただ、インターネットにおいても、匿名性が完全に確保されているわけではありません。インターネット上で何かしらの投稿をすれば、その足跡を残すことになります。

今回は、その足跡を辿って、誹謗中傷をした投稿者を特定する方法について解説します。

誹謗中傷し投稿者を特定する手順

1 サイト管理者にIPアドレスなどを開示させる

IPアドレスは、インターネット上での住所です。何かしらのサイトに投稿するときは、そのサイトのサーバーに投稿する内容を送信しているのですが、その際、投稿者のIPアドレスも一緒に送信しています。封筒を郵送する際に、差出人の氏名や住所を裏書するようなものです。
そのため、サイトのサーバーには、投稿者のIPアドレスがログとして残っています。そこで、サイトの管理者(yahoo、Googleなど)に、サーバーに残っている投稿者のIPアドレスを開示させることができます。

さらに、サイトの管理者に投稿者のIPアドレスを開示させる際には、投稿があった日時(タイムスタンプ)も一緒に開示してもらう必要があります。
住所は引越しをしない限り変わりませんが、IPアドレスは頻繁に変わっていきます。そのため、投稿者を特定するためには、IPアドレスだけでは不十分で、投稿があった日時も必要になってくるのです。

※注意点
①サイトのサーバーに、いつまでも、投稿者のIPアドレスや投稿した日時のログが残っているわけではありません。IPアドレスの保管期間はサイトごとで違いますが、数か月で無くなるサイトは多々あります。また、アカウントが削除されれば、すぐにログの削除がされることもあります。そのため、誹謗中傷を見つけたら、早急に対応しなければなりません。

②サイト管理者に投稿者のIPアドレス等などを開示させた後は、後述するように、アクセスプロバイダに契約者情報の開示を請求することになります。その際、IPアドレスや投稿日時だけでは、開示すべき契約者が誰なのかを特定できない場合があります。
アクセスプロバイダによっては、ポート番号か投稿先のURLも特定のために必要なことがあり、その場合には、それらのログもサイト管理者にはその開示も求める必要があります。

2 アクセスプロバイダに契約者情報を開示させる

インターネットに接続するためには、何らかのアクセスプロバイダ(OCN、ぷららなど)と契約して、アクセスプロバイダにIPアドレスを割り当ててもらう必要があります。
そうすると、裏から見れば、アクセスプロバイダは、どの契約者にどのようなIPアドレスを割り当てたかを知っていることになります。

そこで、①の手続きでサイト管理者から得た情報をもとに、アクセスプロバイダに「●年●月●日●時●分に●●というIPアドレス」を割り当てていた契約者の情報を開示してもらいます。

なお、アクセスプロバイダは何社もあるため、どのアクセスプロバイダに開示してもらえばいいのか疑問に思われるかもしれませんが、その点は問題ではありません。
アクセスプロバイダごとに割り当てることができるIPアドレスは決まっているため、IPアドレスさえ分かれば、どこのアクセスプロバイダが割り当てたものか特定できるためです。例えば、JPNICのサイトでWHOIS検索をすれば分かります。

※注意点
サイト管理者と同様に、アクセスプロバイダも、IPアドレスなどの記録をいつまでも保存しているわけではありません。多くのアクセスプロバイダのログの保存期間は、3~6か月です。
そのため、アクセスプロバイダに任意でログを保存するように依頼することを検討すべきです。なお、任意のログ保存を拒否された場合は、ログ保存の仮処分といった裁判手続を検討する必要があります。

3 契約者情報から実際の投稿者を特定する

誹謗中傷を投稿した者が使用していたIPアドレスが分かり、さらに、そのIPアドレスを誹謗中傷をした時に利用していた契約者が分かったとしても、それで、誹謗中傷を投稿した者を特定できたわけではありません。
アクセスプロバイダが開示したのは、あくまで契約者の情報であり、その契約者は誹謗中傷をした者とは限らないためです。

投稿者を特定できない場合とは?

ここまで、誹謗中傷をした者を特定するための手順を解説しましたが、誹謗中傷をした者を特定できない場合もあります。
投稿者に損害賠償請求をするためには、投稿者を特定する必要があるのですが、裁判などの手続を使ったとしても、必ずしも投稿者を特定できるわけではないのです。

1 ログが削除されている場合

誹謗中傷した者を特定するためには、投稿がされたサイトのサーバーに残っているログやアクセスプロバイダが保管しているログを辿っていくことになります。
ただ、「※注意点」で説明したように、ログには保管期間があります。そのため、ログが削除されていることがあり、その場合には、ログを辿って、誹謗中傷した者を特定することはできません。
誹謗中傷した者を特定する際には、まず、誹謗中傷がされたサイトやアプリのログの保管期間を確認し(サイトやアプリごとのログの保管期間をまとめたサイトがあります。)、特定のための時間的な余裕があるかをまず確認するべきです。

2 匿名化ツールを用いて投稿がされている場合

インターネットには匿名性を確保するためのツールがあります。
例えば、tor(トーア)というブラウザを用いて投稿がされた場合、投稿されたサイトのサーバーには、投稿者が用いたIPアドレスは記録されません。全く関係のない海外のIPアドレスがログに残るだけです。そのため、サイト管理者にIPアドレスを開示してもらったとしても、投稿者を特定するのに役立ちません。

3 フリーWiFiを利用して投稿がされている場合

最近では、カフェやコンビニでフリーWiFiが提供されていることが多いです。
そのようなフリーWiFiを利用して投稿がされた場合、そのネット回線の契約者はフリーWiFiを提供している施設です。そのため、アクセスプロバイダに契約者情報を開示してもらったとしても、誹謗中傷をした投稿者の契約者情報は開示されません。

誹謗中傷の投稿がされたサイトの管理者にIPアドレス等の開示させた後でないと、フリーWiFiを利用して投稿がされたかは分かりません。そのため、投稿者を特定するうえでは、その道半ばで、特定を諦めないといけないこともあります。

4 ネットカフェなどから投稿されている場合

フリーWiFiを利用して投稿がされている場合は、フリーWiFiが利用された場合と同様で、ネット回線の契約者は誹謗中傷をした投稿者ではありません。
そのため、誹謗中傷の投稿がされたサイトの管理者にIPアドレス等の開示をさせたとしても、投稿者まで辿っていくことは困難です。