コラム・チェックポイント

2023.04.05 内田清隆法律事務所

どのような意見や感想が名誉毀損になるか?

意見や感想も民事事件では名誉毀損になる!

 刑事事件で名誉毀損罪になるのは、他人の社会的評価を下げるような「事実」を示した場合に限られます。刑法に、事実を示して名誉棄損をした場合に限って、名誉棄損罪になると記載されているからです。
 そのため、「Aは不倫している」と言いふらせば、名誉棄損罪になることがありますが、「Aはバカだ」と言いふらしても、それはあくまで意見や感想にすぎないので、名誉棄損罪になりません。なお、意見や感想が名誉棄損罪にならなくても、侮辱罪になることはあります。

 一方、民事事件で損害賠償請求などする場合には、事実を示さない場合であっても名誉毀損になることはあります。名誉毀損は人や会社の社会的評価を低下させることを言いますが、意見や感想であっても社会的評価を下げることはあり、そのような場合には名誉毀損になるのです。

 ただ、口コミサイトで「不味い」「つまらない」などのネガティブな意見を書き込んだとしても、それだけで名誉毀損になるわけではありません。そのような口コミを多くの人が見たとしても、単にそのような意見の人がいると思われるだけで、社会的評価を下げるとは言えないからです。

「イエス!高須クリニック」のCMは陳腐?

裁判で、意見・感想が名誉毀損になるかが問題になったものとして有名なのが、高須クリニックの事例です。
高須クリニックは、「イエス!高須クリニック」のCMで有名ですが、大西議員が、「「イエス●●」と連呼するだけのCMなど、非常に陳腐なものが多く、患者が医療機関を選ぶ上で有用でない」などと発言しました。高須クリニックは、この発言が名誉毀損に当たるとして損害賠償を請求したのです。

この裁判で問題になったのは、高須クリニックのCMが陳腐と言われて、高須クリニックの社会的評価は低下するかという点です。
ここで、国会議員の発言を聞いて、人々が高須クリニックのCMは陳腐だと思うようになるのであれば、高須クリニックの社会的評価は下がるといえるでしょう。ただ、実際には、多くの人は、大西議員が高須クリニックのCMを陳腐と思っていると受け取るだけでしょう。
裁判でも、そのように判断されて、名誉毀損に当たらないとされました(他にも理由がありますが)。

どのような意見や感想が名誉毀損になる?

では、どのような意見や感想が、社会的評価を下げ、名誉毀損になるのでしょうか。
結論からいうと、具体的な根拠をもつ意見や感想であれば、名誉毀損になることがあります。

このことを理解するために、手かざし治療院に対する次の二つの意見を比べてみてください。どちらが説得的に感じますか。

①効果があったかどうかは良く分からない、料金が高い
②脳幹グリオーマという脳幹部に腫瘍ができる難病でも治せるといわれ、お布施という名目で1回2万円を支払い、施術を2回受けたものの全く効果がなかった

いずれも治療院の料金が高く、効果がないという趣旨の意見ですが、②の意見の方が、具体的な根拠が示されているため、説得的でしょう。そして、②の意見は、説得的であるため、社会的評価を低下させると言えます。
この例は、実際に裁判になった事案で、裁判所も②の意見は名誉毀損になるとしました。

どこまで具体的な根拠があれば、意見や感想でも名誉毀損になるかは、ハッキリしないところがあります。個別の事例ごとに、社会的評価を下げるほどに、具体的な根拠があり説得的なものであるか考えていく必要があるでしょう。

社会的評価を低下させなくても、損害賠償請求できる場合とは?

意見や感想が、社会的評価を低下させるものでなければ、名誉毀損にはなりません。
しかし、社会的評価を低下させなくても、意見や感想が、社会通念上許される限度を超える侮辱であれば、名誉感情(人が自身に対して持つ自己肯定感)を侵害するものとして、損害賠償請求をすることができます。

例えば、SNSで「バカ女」「肉便器」と書き込まれても、それだけでは単なる意見と受け取られて、通常、社会的評価は低下せず、名誉毀損にはなりません。ただ、そのような書き込みをされた方は、心が傷ついてしまうでしょう。そこで、そのような書き込みをした者に対して、名誉感情の侵害を理由に損害賠償請求などをすることができることがあります。

どのような場合に、「社会通念上許される限度を超える侮辱」といえるかはハッキリしません。裁判例では、「通常の社会生活において投げかけられることは滅多にないような強い侮辱表現」を「社会通念上許される限度を超える侮辱」としたものがありますが、このように言い換えても明確にはなりません。ここでも、個別の事例ごとに考えていく必要があるでしょう。