コラム・チェックポイント

2024.10.28 内田 清隆

物のパブリシティ権は認められるか~有名な「物」を無断で広告に使えるか

法律はないが、有名人の写真や氏名を無断で使うことは、一定の場合、有名人の「パブリシティ権」侵害として許されないというのが最高裁の判例である。

 

では、東京タワーのような有名建築物、ハイブランドのバッグのような有名商品、ディープインパクトのような有名な動物(法律上は「物」)といった、有名な「物」を広告に使うことは許されるのであろうか。

 

様々な法律が問題になるが、有名人と同様に有名な「物」にもパブリシティ権が認められるのか、つまり「物のパブリシティ権」は認められるのかというのが最初に問われる論点だ。

 

この点、平成16年2月13日の判決において、最高裁は、物のパブリシティ権を明確に否定しており、日本法上、物のパブリシティ権は認められないというのが一般的な見解である。

 

確かに、最高裁は、同判決で

「物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。

上記各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。」

と判示しており、競走馬に関する「物のパブリシティ権」を明確に否定している。

 

ただし、そもそもの同判例の射程については、不明確なところがあるし、ましてや、最高裁が平成16年に「現時点において、これを肯定することはできない」と判示したことを思うと、20年が経過した現在(令和6年)においても、最高裁が物のパブリシティ権を肯定することができないと考えているのかは判然としない。

しかも、同判例についての調査官解説では、「本判決は、競走馬の所有者が競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約を締結すること自体には何ら否定的評価を下しておらず・・・ゲームソフト会社としても、事業を円滑に進める上では、通常はこのような契約を締結することが望ましい」(民事篇平成16年度(上)116頁)とあり、物のパブリシティ権があるかのような契約をすることが望ましいと評価されている。

 

また、かつては物のパブリシティ権を認めた裁判例も多数存在したところであるし、現在においても、物のパブリシティ権を認めるべきだとする学説も存在する。

 

そうすると、

「物のパブリシティ権は認められないとするのが現在の最高裁の考え方ではあるが、将来変更される可能性もあり、動向を注視していく必要がある」

というのが結論になるのであろう。