2024.09.10
分散した株式の集約方法
相続等により株式が複数の株主に分散してしまった場合、株主の管理コストが増大するのみならず、株主権の行使によって企業の運営に支障が生じてしまうおそれもあります。株式を取得した者が任意での株式の買取りに応じてくれるのであれば問題ありませんが、これを拒否された場合、株式を集約するためには、会社法等に定める手段を実行する必要があります。そこで、本稿では、会社法に定められている株式の集約方法をいくつか紹介します。
相続人等に対する売渡しの請求
相続等が発生する前に定款で定めておくことにより、相続等によって株式(譲渡制限株式に限ります。)を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができます。この手段利用する場合は、相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経た上で請求する必要があります。
もっとも、この手段は、会社に敵対的な株主によって利用される可能性もあることに注意する必要があります。つまり、先代の経営者について相続が開始し、後継者が先代の経営者が保有していた株式を承継した場合に、他の敵対株主が主導して、後継者に対して売渡請求を行うための株主総会が開催されると、当該後継者は、利害関係を有する株主として売渡請求について議決権を行使することができません。その結果、後継者が先代の経営者から承継した株式についても会社に買い取られてしまい、後継者に株式を集約させることができなくなってしまいます。このため、相続人等に対する売渡請求の制度を導入するに際しては、株主構成や他の株主(予定者)の意向に留意する必要があります。
特別支配株主による株式等売渡請求
株式会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)は、他の株主全員に対し、当該株式会社の株式の全部を自らに売り渡すことを請求することができます。この手段によれば、株主総会の決議を経ることなく株式を買い取ることができるというメリットがあります。手続のおおまかな流れは以下のとおりです。
特別支配株主が、売渡請求をすることを会社に通知する。
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取締役会(取締役会を設置していない場合は代表取締役)の承認を得る。
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会社が少数株主に対して、特別支配株主から売渡請求がなされ、会社が承認したことを、株式の取得日の20日前までに通知する。
所在不明株主の株式の買取等
相続等により株式が分散した結果、株主と連絡が取ることができなくなり、株主総会の招集通知等を送付しても「あて所に訪ねあたりません」として返送されてしまうことがあります。5年以上継続して会社からの通知が到達せず、かつ、配当を受領していない株主については、公告・個別の催告等の手続を経た上で、会社が株式を買い取ったり、競売したりすることができます。もっとも、この手段はやや手続が煩雑であるため、可能であれば、特別支配株主による株式等売渡請求等の手段による方がよいでしょう。
最後に
以上のとおり、分散した株式を集約させるための会社法上の手段を実行するためには、一定の手続を履践する必要があります。株式(特にオーナー株主の株式)の分散を避けるために、事前の策として、遺言や生前贈与等の制度を活用することを検討するとよいでしょう。
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